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まずは資産拡大の定義を整理したうえで、それを左右する要素について確認していきましょう。
不動産投資の規模を語るとき、保有物件の総額が話題になることがあります。
しかし、物件を購入する際には多くの場合ローンを利用するため、物件価格がそのまま自分の資産になるわけではありません。
そこで基準となるのが純資産という考え方です。
純資産とは、保有している資産の総額から借入残高を差し引いた金額のことです。
たとえば1億円の物件を8,000万円の借入で購入した場合、その時点の純資産は差額の2,000万円となります。
この純資産は、主に次の2つの経路で増えていきます。
物件価格そのものの値上がりも純資産を押し上げる要因にはなりますが、価格は市況によって変動するため、あらかじめ織り込んで計画を立てるべきものではありません。
国土交通省が公表している不動産価格指数でも、住宅・商業用不動産の価格は時期によって上下しており、将来の値上がりを前提とした計画は避けるのが無難といえるでしょう。
資産拡大を考える際は、返済による残高の減少と手残りの積み上げという、自分でコントロールしやすい2つの経路を軸に据えることが基本となります。
純資産を増やしていくうえで、実際に拡大のペースを決めるのは次の3つです。
物件を取得するには頭金と諸費用が必要です。
ひとつの物件に投じる自己資金が大きいほど、次の物件を検討できるようになるまでの期間が長くなりやすいといえるでしょう。
金融機関が個人に対して融資できる金額には上限があり、これを与信枠と呼びます。
また建物の構造によって融資期間の設定が変わる点も、借入可能額に影響を与えるポイントのひとつです。
キャッシュフローとは、家賃収入から管理費や税金などの経費とローン返済額を差し引いた手残りを指します。
ここが薄いと、修繕が発生したときに備えを取り崩すことになり、次の物件へ回す資金が貯まりません。
この3要素は独立しているわけではなく、互いに影響し合っています。
たとえば手残りが厚ければ自己資金の回復が早まり、次の融資審査でも運営実績として評価されやすくなります。
逆にどれか1つでも詰まると、そこで拡大は止まってしまうでしょう。
次章からは、この3要素に沿って、区分・戸建て・一棟アパートの違いを具体的に見ていきます。
参考:国土交通省「不動産価格指数」

区分マンション・戸建て・一棟アパートでは、規模の増え方に構造的な違いがあります。
どれが優れているという話ではなく、増え方の形が異なるという視点で見ていきましょう。
区分マンション投資は、マンションを1戸単位で購入する方法です。
1戸あたりの価格が抑えられる傾向にあるため、頭金や諸費用の負担も小さくなりやすいのが特徴です。
資産の増え方は1戸ずつ積み上げていく形が基本となります。
物件ごとにエリアを変えられるため、特定地域の需要変動による影響を和らげやすい点も特徴といえるでしょう。
ただし共用部分の修繕は管理組合の決議で決まるため、オーナー個人が判断できる範囲は限られます。
戸建て投資は、一戸建て住宅を購入して賃貸に出す方法です。
中古であれば比較的少額で取得できるケースもあり、自己資金のみで購入するという選択肢を取りやすい点が特徴です。
借入がなければ手残りは厚くなりますが、投じた自己資金がその物件に固定される点には注意が必要でしょう。
また融資を利用する場合、築年数が壁になることがあります。
たとえば木造住宅は法定耐用年数が22年と定められており、金融機関はこれを融資期間の判断材料とするため、築年数の経過した物件では返済期間が短く設定されるケースがあります。
一棟アパート投資は、アパートを1棟まるごと取得する方法です。
最大の特徴は、1回の取得で複数戸を同時に確保できるという点にあります。
たとえば8戸のアパートを取得すれば、区分マンションを8戸そろえるのと同じ戸数を一度に保有できます。
1戸が空いても他の戸から家賃収入が入るため、収入がゼロになる事態を避けられるでしょう。
一方で必要な自己資金は大きくなり、物件価格が上がるほど金融機関の審査も慎重になります。
資産拡大という観点から3タイプの特徴を並べると、以下のように整理できます。
| 区分マンション | 戸建て | 一棟アパート | |
| 1回の取得で増える戸数 | 1戸 | 1戸 | 複数戸 |
| 1件あたりの自己資金 | 比較的小さい | 物件により幅がある | 比較的大きい |
| 戸数の増やし方 | 取得を繰り返して積み上げ | 取得を繰り返して積み上げ | 1棟単位でまとまって増加 |
| 空室時の収入への影響 | その戸の収入がゼロ | 収入がゼロ | 他の戸でカバーできる |
| エリア分散のしやすさ | 分散させやすい | 分散させやすい | 1物件が同一エリアに集中 |
取得回数を重ねて戸数を積み上げるか、1回の取得でまとまった戸数を確保するかという違いが、拡大スピードの差として表れる仕組みです。
ただし、いずれの方法でも共通して制約となるのが融資です。
次章では、この融資の伸び代について見ていきます。
参考:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」

資産規模を伸ばしていく過程で、多くの投資家が最初に直面するのが融資の壁です。
借入可能額は物件の条件と本人の状況の両面から判断されるため、どこに上限があるのかをあらかじめ把握しておくことが重要になります。
金融機関が融資期間を決める際の判断材料のひとつとなるのが建物の法定耐用年数です。
法定耐用年数とは、建物の減価償却費を計算するための基準となる期間のことです。
住宅用建物については、構造ごとに以下のように定められています。
| 木造 | 22年 |
| 重量鉄骨造(骨格材の厚さ4ミリメートル超) | 34年 |
| 鉄筋コンクリート造 | 47年 |
構造ごとに年数の差があるため、同じ価格の物件でも、構造や築年数によって組める返済期間が変わる場合があります。
なお金融機関がこの年数をどの程度重視するかは各行の方針によって異なり、公表された統一基準はありません。
実際の融資期間については、個別に相談して確認する必要があるでしょう。
資産拡大の制約となる数値的な上限には、大きく2つあります。
返済比率とは、家賃収入に対して年間のローン返済額が占める割合のことです。
この割合が高いほど手残りが薄くなり、空室や修繕が発生した際の資金繰りが厳しくなります。
一般的には50〜60%程度が安全ラインの目安とされていますが、細かい評価は金融機関ごとに異なります。
与信枠とは、金融機関が1人の借り手に対して融資できる金額の上限のことです。
物件を増やすほど借入残高が積み上がるため、いずれ与信枠に近づいていくことになります。
与信枠は物件ごとではなく借り手個人に紐づくため、住宅ローンなど他の借入がある場合はその分も合算して判断される点に注意が必要です。
資産拡大を続けるには、複数の金融機関と取引したり、法人を設立して別の枠を活用したりするといった対応が検討されます。
融資条件を考えるうえでは、足元の金利環境も押さえておきたいところです。
日本銀行は2026年6月の金融政策決定会合で、政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標を1.0%程度へ引き上げました。
その後、7月31日の会合ではこの水準が維持されています。
変動金利で借り入れる場合、こうした市場金利の動きによって将来の返済額が変わる可能性があります。
金利がどこまで動くかを正確に予測することはできないため、現在の水準から1〜2%程度上昇した場合を想定し、それでも返済を続けられるかを事前に確認しておくと安心でしょう。
参考:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」
日本銀行「当面の金融政策運営について(2026年7月31日)」

融資枠に余裕があっても、毎月の手残りが薄ければ次の物件へは進めません。
ここでは、キャッシュフローが拡大のペースにどう影響するのかを見ていきます。
まず、物件価格8,000万円のケースを試算してみましょう。
前提条件は以下のとおりです。
| 物件価格 | 8,000万円 |
| 頭金 | 20%(1,600万円) |
| 借入額 | 6,400万円 |
| 金利 | 2% |
| 返済期間 | 25年(元利均等返済) |
| 表面利回り | 7% |
この条件で年間の収支を計算すると、次のように整理できます。
| 年間金額 | |
| 家賃収入 | 560万円 |
| ローン返済額 | 約326万円 |
| 経費(家賃収入の20%) | 112万円 |
| 手残り | 約122万円 |
経費には管理委託費や固定資産税などが含まれます。
家賃収入560万円に対して、実際に手元に残るのは年間約122万円という水準です。
この金額が、修繕への備えと次の物件に向けた自己資金の両方を支える原資となります。
なお上記は満室を前提とした試算のため、空室が出れば手残りがさらに圧縮される点にも注意しましょう。
IREM JAPANの全国賃貸住宅実態調査(2025年版)によると、空室率は区分の単身向けが1.70%、区分のファミリー向けが1.16%、一棟木造が2.09%となっています。
数値の差は大きくありませんが、注目したいのは1戸が空いたときの影響度です。
1戸だけの保有では、その戸が空室になると収入もゼロになります。
一方、8戸のうち1戸が空いたといったケースでは減少幅が限られるため、返済を続けながら次の入居者を探す余裕が生まれるでしょう。
また入居期間の長さも手残りに関わります。
日本賃貸住宅管理協会の日管協短観(第28回・2023年度)によると、ファミリー世帯の平均居住期間は5年3ヵ月、単身世帯は3年3ヵ月と報告されています。
入居期間が長ければ、退去のたびに発生する原状回復費や募集広告費の頻度を抑えることができるでしょう。
国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」では、木造10戸(1LDK〜2DK)のアパートの場合で30年間の修繕費合計が約2,160万円と示されています。
30年で割ると年間72万円となり、先ほどの試算で残った約122万円の大部分を占めることがわかります。
区分マンションの場合は管理組合へ修繕積立金を毎月支払う形になりますが、戸建てや一棟アパートにはこうした積立の仕組みがありません。
そのためオーナー自身で計画的に資金を確保しておく必要があるでしょう。
修繕費を織り込まずに手残りを計算すると、資産拡大のペースを実際よりも速く見積もることになります。
規模を伸ばすほど修繕対象の戸数も増えるため、早い段階から積立を前提とした計画を立てておきましょう。
参考:IREM JAPAN「全国賃貸住宅実態調査(2025年版)」
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「日管協短観(第28回・2023年度)」
国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」

ここまで見てきた拡大スピード・融資・キャッシュフローの3要素を踏まえ、実際にどう選べばよいかを整理します。
用意できる自己資金の規模によって、取りうる選択肢は変わってきます。
| 自己資金の目安 | 選択肢になりやすい投資対象 | 拡大の進め方 |
| 500万円前後 | 区分マンション、中古戸建て | 1戸ずつ取得し、運営実績を積み上げる |
| 1,000万〜2,000万円 | 区分の複数戸、小規模な一棟アパート | 戸数をまとめて確保する選択肢が視野に入る |
| 2,000万円以上 | 一棟アパート | 1棟単位で規模を伸ばし、複数棟を目指す |
物件取得には頭金のほかに諸費用も必要です。
登記費用や不動産取得税、仲介手数料などを含め、物件価格の5〜8%程度を見込んでおくと良いでしょう。
なお自己資金のすべてをひとつの物件に投じてしまうと、修繕や空室に対応する余力がなくなります。
手元にいくら残すかを先に決めたうえで、投資に回せる金額を逆算する進め方が現実的です。
投資規模を伸ばすほど、物件の管理に関わる業務量も増えていきます。
区分マンションであれば共用部分の管理は管理組合が担いますが、戸建てや一棟アパートでは建物全体の維持管理をオーナーが判断することになります。
管理会社へ委託すれば日常業務は任せられるものの、修繕時期や設備投資の判断は自身で下す必要があるでしょう。
資産拡大のペースを決める際は、資金面の余裕だけでなく、管理にどこまで関わる意思があるかもあわせて考えることが大切です。
そのうえで起点となるのは、1件目の運営実績です。
金融機関は次の融資審査で既存物件の返済状況や入居率を確認するため、目の前の1件を安定して運営することが結果的に次の一手につながります。
どちらが有利かを一概に決めることはできません。
区分は1戸ずつ取得するため各回の負担が小さく、エリアを分散させやすいという特徴があります。
一棟アパートは1回の取得でまとまった戸数を確保でき、空室が出た際の影響を吸収しやすい点が強みです。
用意できる自己資金と、管理にどこまで関わりたいかによって適した選択肢が変わります。
借入がない分だけ手残りは厚くなりますが、拡大が早まるとは限りません。
投じた自己資金がその物件に固定されるため、次の物件へ回す資金が貯まるまで時間がかかるためです。
一方で、借入なしの実績が金融機関への説明材料になる場合もあります。
どちらの進め方が合うかは、拡大までにかけられる期間によって判断が分かれるでしょう。
借入額が大きいほど影響も大きくなります。
借入6,400万円・返済期間25年・元利均等返済の場合、金利2%での年間返済額は約326万円ですが、3%になると約364万円まで増えます。
差額は年間約39万円であり、その分だけ次の物件へ回せる資金が減る計算です。
金利は自分でコントロールできない要素のため、上昇局面を想定した資金計画をあらかじめ立てておきましょう。
明確な基準はありませんが、金融機関は次の審査で既存物件の返済状況や入居率を確認します。
そのため、一定期間の運営実績を積んでから相談するほうが評価を得やすくなるでしょう。
返済実績が浅い段階では融資条件が厳しくなりやすいため、焦って取得を重ねるより、手残りと修繕積立の状況を見ながら判断するのが現実的です。
売却時の価格は、その時点の市況や物件の収益状況によって変わります。
一棟アパートの場合は家賃収入をもとに価格が判断されるケースが多く、入居率を保っておくことが評価につながります。
なお、売却によって得た資金を次の物件の自己資金に充てるという進め方もひとつです。
保有を続けるか売却して組み替えるかは、借入残高と手残りの状況を踏まえて検討しましょう。
どの投資対象を選ぶかは、用意できる自己資金と管理への関わり方によって変わります。
拡大を急ぐよりも、1件目を安定して運営し、次の融資につながる実績を積むことが結果的に近道となるでしょう。
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新卒で株式会社リクルートに入社したのち、20代のうちに起業する。
2014年株式会社鎌倉新書取締役に就任、同社はマザーズに上場(現在はプライム市場)。
リーマンショック後に個人で不動産投資を始める。地方築古、区分マンション、民泊運営、中古RC、新築RCなどの投資を経験。
自身のITスキルを活かして、情報収集ツールや物件の収益分析ツールを自作し、最小の労力で最良の意思決定をすることを強みにしている。
京都大学農学部卒業。
7億件の不動産ビッグデータから、投資勝率をAIがスコアで可視化。投資判断で欠かせない重要指標だけでなく、立地の将来人口予測、地価上昇、賃料動向も瞬時にグラフ化します。物件購入時の見えないリスクを教えてくれます。
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