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一棟アパートの建物は、時間の経過とともに屋根や外壁、給排水管などさまざまな箇所が劣化していきます。
点検や修繕を後回しにしたまま放置すると、劣化が進み、資産価値の低下にもつながりかねません。
国土交通省の「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」では、設備点検・修繕の放置が入居率の低下や家賃収入の下落へとつながる悪循環として整理されています。
建物の性能が落ちて入居者からの評価が下がれば、空室の増加や家賃収入の減少を招き、結果として次の修繕に充てる資金を確保しにくくなるという構造です。
この悪循環を避けるためには、あらかじめ計画的に修繕を実施し、資金を積み立てておくことが欠かせません。
実際に、国土交通省「民間賃貸住宅市場の実態把握及び分析に関する調査検討(計画修繕の実態など調査報告書)」(令和5年3月)では、木造・RC造(鉄筋コンクリート造)のいずれについても、計画的に修繕を行っている物件のほうが、行っていない物件よりも実質利回りが高いという結果が示されています。
修繕費は、単なる「支出」ではありません。
建物の性能と入居率を維持し、長期的な収益を守るための投資的な費用として捉えることが大切です。
次章では、この修繕費に対する積立額を、具体的にどのように算出すればよいのかを見ていきましょう。

修繕積立額を検討するにあたり、まず押さえておきたいのが算出の考え方です。
国土交通省の「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」には、毎月の積立額を求める基本式として、計画期間における修繕費の合計額を、計画期間の月数で割るという方法が示されています。
同ガイドブック内の試算例を見ると、計画期間35年間・修繕費合計9,500万円という条件のもと、35年×12ヶ月=420ヶ月で割ることで、月あたり約22万6,190円という積立額の目安が算出されています。
戸数が18戸の物件であれば、戸あたりに換算して月1万2,566円程度になる計算です。
このように、修繕費の総額と計画期間さえ把握できれば、毎月いくら積み立てればよいのかを具体的な数字として算出できる点が、この方法のメリットといえるでしょう。
続いて、一棟アパートに近い条件で試算してみましょう。
国土交通省の「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」によると、木造10戸(1LDK〜2DK)・家賃1戸あたり月10万円という条件における30年間の修繕費合計は、棟あたり約2,160万円とされています。
先ほどの算出式に当てはめると、2,160万円を30年×12ヶ月=360ヶ月で割ることになり、月あたり約6万円という積立額の目安が導き出されます。
10戸の物件として戸あたりに換算すると、月6,000円程度が目安になる計算です。
ただし、この金額はあくまで国土交通省のデータに基づく一般的な目安にすぎません。
実際の修繕費は、物件の立地や構造、仕様、劣化の進行状況によって異なるため、自身の物件に合わせた長期修繕計画を作成したうえで、積立額を設定することが望ましいといえます。
なお積立額の目安として、修繕費の総額から逆算する方法のほかに、建築費に対する一定割合を年間積立額の目安とする考え方を案内している管理業者もあるようです。
どの程度の割合が適切かは物件によって異なるため、一律に断定することはできません。
自身の物件にどのような考え方が合うかについては、管理会社や専門家に相談しながら判断することをおすすめします。

長期修繕計画を作成するにあたっては、計画期間の設定、修繕項目の設定、修繕周期の設定、修繕費の算定という4つのステップに分けて進めていくことが大切です。
国土交通省の「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」に基づき、それぞれの内容を見ていきましょう。
長期修繕計画を作成する際、最初に決めるべきことが計画期間です。
同ガイドブックでは、計画期間の考え方として、経営計画の期間に合わせる方法や融資期間に合わせる方法、大規模修繕工事が1回以上含まれる期間とする方法などが紹介されています。
近年の分譲マンションでは、計画期間を30年以上とし、かつ大規模修繕を2回以上含める考え方が一般的になっているとされています。
賃貸住宅においてもこの考え方を参考にしたうえで、オーナー自身の経営期間や融資期間といった個別の事情を踏まえた計画期間を設定することが望ましいでしょう。
次に行うのが、修繕が必要になる箇所を洗い出す作業です。
基本的には設計図書をもとに、建物を構成する部位をすべて拾い出すことが望ましいとされていますが、あまりに詳細にしすぎると内容を把握しづらくなるため、国土交通省や日本賃貸住宅管理協会が示す項目を参考にする方法がおすすめです。
なお共用部分だけでなく、給湯器や浴室設備、エアコンといった住戸内の専用部分についても修繕項目として設定する必要がある点に注意しましょう。
マンション向けの資料には、こうした専用部分の項目が含まれていない場合があるため、一棟アパートの計画修繕では、この点を補って項目を設定することが求められます。
修繕項目を洗い出したら、それぞれの修繕周期、つまり次の修繕が必要になるまでの期間を設定します。
修繕周期は部材の耐用年数や仕様、立地条件によって異なり、専門的な判断が必要になるケースも多いため、国土交通省や日本賃貸住宅管理協会が公表している目安を参考にする方法が現実的です。
なお、修繕の実施予定年を特定の年に限定するといった必要はありません。
「11〜15年目」のように幅を持たせて設定し、その期間内で実施するものとして扱うと良いでしょう。
最後に、修繕項目ごとの費用を見積もります。
実際の工事の積算資料や、公表されている建設物価の資料を用いて工事費単価を求める方法のほか、施工業者へのヒアリングを通じて費用感を把握する方法もあります。
ここで留意したいのが、計画上の修繕費はあくまで現時点で想定される工事内容に基づく金額であり、将来の工事費の高騰や、想定より劣化が進行した場合には、費用が上振れする可能性があるという点です。
こうした前提についても、あらかじめ理解しておくことが望ましいでしょう。
長期修繕計画は、一度作成すれば終わりというものではありません。
同ガイドブックでは、計画修繕の手順として、計画・点検・検討と調整・実施・記録・計画の見直しという一連のサイクルで進めることが示されています。
修繕を実施したら、その内容に応じて以降の実施予定年や修繕費の目安を修正し、計画を見直す必要があります。
また物件の状態を点検した結果、修繕の実施を見送ったという場合にも、変更後の実施予定年を改めて計画に反映させることが求められるでしょう。
こうした見直しを重ねることで、長期修繕計画は実態に即した精度の高いものへと更新され続けます。
一棟アパートの経営を長期にわたって安定させるためにも、計画を作成した後の運用まで意識しておくことが大切です。

修繕資金を用意する方法は、毎月コツコツ積み立てる以外にも複数存在します。
国土交通省の「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」で紹介されている方法をもとに、それぞれの特徴を見ていきましょう。
将来必要になる修繕資金を、家賃収入から一定額積み立てておくという方法が、最も確実な資金確保の手段です。
前章で紹介した「修繕費合計÷計画期間の月数」という考え方に基づき、毎月の家賃収入からあらかじめ一定額を確保しておく方法です。
ただし、家賃が収納される普通預金口座にそのまま入れておくだけでは、使い込みや資金の混同が起こりやすいという課題があります。
そのため修繕専用の口座を別に用意し、そこへ毎月一定額を移していくといった工夫をすることで、より確実に資金を確保しやすくなるでしょう。
普通預金以外の選択肢として、積立型の金融商品を活用するのもひとつの方法です。
定期預金のほか、保険性のある金融商品や修繕費用に特化した共済制度を活用して積み立てる方法があります。
こうした商品のなかには、大規模修繕の実施時期にあわせて積立期間や積立金額を設定できるものもあり、単なる預金と比べて計画的に資金を準備しやすいといった特徴があります。
また法人オーナーの場合、これらの保険料や掛金を経費として計上できるケースもあるため、活用を検討する価値は十分にあるといえるでしょう。
なお修繕費用に特化した共済制度の場合、毎年1回の定期検査を伴うものもあり、劣化や不具合を早期に発見できるという副次的なメリットも期待できます。
どのような商品が自身の物件に適しているかは、個別の条件によって異なるため、加入前に十分に比較検討することが大切です。
積立金だけでは大規模修繕の費用を賄いきれないという場合は、融資を活用する方法もひとつです。
融資の利用によって月々の返済が発生するものの、必要な時期に十分な修繕を実施できれば、入居率や家賃水準の維持につなげることができるでしょう。
住宅金融支援機構では、外壁や屋根の大規模修繕工事、室内のリフォーム工事などを対象とした賃貸住宅向けの融資制度が用意されています。
融資を利用する場合は、工事の実施予定時期よりも前もって金融機関に相談しておくことが重要とされており、長期修繕計画によってあらかじめ工事時期を見通しておくことで、スムーズな融資活用が可能となるでしょう。
なおいずれの方法を選ぶ場合であっても、修繕資金を別の使途に用いてしまうと、必要な時期に資金が不足するおそれがあります。
資金を確保する仕組みだけでなく、その資金を確実に修繕に充てられる運用ルールを整えておくことも、あわせて意識しておきたいポイントです。
まずは、国土交通省のデータをもとにした一般的な目安から検討することをおすすめします。
木造10戸(1LDK〜2DK)の場合、30年間の修繕費合計は棟あたり約2,160万円とされており、これを月数で割ると月あたり約6万円、戸あたりでは月6,000円程度が目安になります。
ただし、この金額はあくまで一般的な目安であり、物件の立地や仕様、劣化の進行状況によって必要な積立額は変わります。
最終的には、自身の物件に合わせた長期修繕計画を作成したうえで、積立額を設定することが望ましいといえるでしょう。
必要です。
新築から築10年目までは大規模な修繕がほぼ発生しないため、修繕費の負担は限定的です。
しかし築11年目以降は屋根や外壁の塗装、給湯器の交換などが集中し、棟あたり数百万円規模の費用が発生します。
「新築だから当面は大丈夫」と積立を後回しにしてしまうと、大規模修繕の時期に資金が不足するリスクがあるため、取得直後の早い段階から計画的に積み立てておくことが大切です。
明確に「何年」と定められた基準があるわけではありません。
国土交通省の資料では、経営計画の期間に合わせる方法や融資期間に合わせる方法などが紹介されています。
近年の分譲マンションでは、計画期間を30年以上とし、大規模修繕を2回以上含める考え方が一般的になっているとされており、賃貸住宅においてもこの考え方が参考になります。
自身の経営期間や融資条件といった個別の事情を踏まえたうえで、計画期間を設定することが望ましいといえるでしょう。
修繕積立額や長期修繕計画は、物件の立地や仕様によって最適な形が異なるため、一般的な目安をそのまま当てはめるのではなく、自身の物件に合わせて具体的に検討することが大切です。
計画的な積立と定期的な見直しを続けることが、長期にわたって安定した賃貸経営を実現するための土台になるでしょう。
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新卒で株式会社リクルートに入社したのち、20代のうちに起業する。
2014年株式会社鎌倉新書取締役に就任、同社はマザーズに上場(現在はプライム市場)。
リーマンショック後に個人で不動産投資を始める。地方築古、区分マンション、民泊運営、中古RC、新築RCなどの投資を経験。
自身のITスキルを活かして、情報収集ツールや物件の収益分析ツールを自作し、最小の労力で最良の意思決定をすることを強みにしている。
京都大学農学部卒業。
7億件の不動産ビッグデータから、投資勝率をAIがスコアで可視化。投資判断で欠かせない重要指標だけでなく、立地の将来人口予測、地価上昇、賃料動向も瞬時にグラフ化します。物件購入時の見えないリスクを教えてくれます。
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