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一棟アパートの修繕費は「小規模修繕」と「大規模修繕」の大きく2種類に分けて考えるのが基本です。
それぞれの特徴を理解しておくことで、無理のない資金計画につながります。
小規模修繕
日常的な維持管理の範囲で発生する比較的少額の工事を指します。
給湯器の故障対応や共用部の電球交換、室内クロスの部分補修などが代表的な例です。
突発的に発生することも少なくありませんが、費用自体は1件あたり数万円程度に収まるケースが多いでしょう。
大規模修繕
屋根・外壁の塗装や防水工事、給排水管の交換など、建物全体に関わる工事を指します。
小規模修繕と異なり、1回あたりの費用が数百万円規模になることもあるため、事前の積立と計画が不可欠です。
おおまかな実施時期は事前にある程度見通せるため、長期修繕計画を作成して備えておくようにしましょう。
修繕費と混同しやすいものとして、原状回復費が挙げられます。
原状回復費とは、入居者が退去した際に部屋を元の状態に戻すためにかかる費用です。
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」では、通常の使用によって生じた損耗・劣化の補修費用は貸主(オーナー)が負担すると定められています。
たとえば、経年による壁紙の変色や床の軽微な傷などは、オーナー側が負担するということです。
入居者が故意または不注意によって生じさせた損傷については、入居者側に負担を求めることができますが、その判断には一定のルールがあります。
原状回復費は入居者が退去するたびに生じるため、修繕費とは別に収支計画へ組み込んでおく必要があるでしょう。

修繕費は築年数を重ねるにつれて一定のペースで増えていくわけではなく、特定の時期に集中して大きな費用が発生するという特徴があります。
国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」では、構造・間取り別の修繕時期と費用のイメージが示されています。
ここでは、木造アパートのデータをもとに費用カーブの全体像を確認してみましょう。
同ガイドブックによると、木造10戸(1LDK〜2DK)の物件における修繕費のイメージは以下のとおりです。
| 築年数 | 主な修繕内容 | 棟あたり費用目安 |
| 5〜10年目 | ベランダ・階段・廊下(塗装)、室内設備(修理)、排水管(高圧洗浄等) | 約90万円 |
| 11〜15年目 | 屋根・外壁(塗装)、ベランダ・階段・廊下(塗装)、給湯器等(修理・交換)、排水管(高圧洗浄等) | 約640万円 |
| 16〜20年目 | ベランダ・階段・廊下(塗装)、室内設備(修理)、給排水管(高圧洗浄等・交換)、外構等(修繕) | 約230万円 |
| 21〜25年目 | 屋根・外壁(塗装・葺替)、ベランダ・階段・廊下(塗装・防水)、浴室設備等(修理・交換)、排水管(高圧洗浄) | 約980万円 |
| 26〜30年目 | ベランダ・階段・廊下(塗装)、室内設備(修理)、給排水管(高圧洗浄等・交換)、外構等(修繕) | 約230万円 |
| 30年合計 | 約2,160万円 |
30年間の合計は棟あたり約2,160万円、1戸あたりに換算すると約216万円になります。
費用の大部分が11〜15年目と21〜25年目に集中していることから、この2つの時期に向けた資金準備が経営の安定を大きく左右するといえるでしょう。
同ガイドブックでは、木造10戸(1K)の物件における修繕費イメージも示されています。
| 築年数 | 主な修繕内容 | 棟あたり費用目安 |
| 5〜10年目 | ベランダ・階段・廊下(塗装)、室内設備(修理)、排水管(高圧洗浄等) | 約70万円 |
| 11〜15年目 | 屋根・外壁(塗装)、ベランダ・階段・廊下(塗装・防水)、給湯器等(修理・交換)、排水管(高圧洗浄等) | 約520万円 |
| 16〜20年目 | ベランダ・階段・廊下(塗装)、室内設備(修理)、給排水管(高圧洗浄等・交換)、外構等(修繕) | 約180万円 |
| 21〜25年目 | 屋根・外壁(塗装・葺替)、ベランダ・階段・廊下(塗装・防水)、浴室設備等(修理・交換)、排水管(高圧洗浄) | 約800万円 |
| 26〜30年目 | ベランダ・階段・廊下(塗装)、室内設備(修理)、給排水管(高圧洗浄等・交換)、外構等(修繕) | 約180万円 |
| 30年合計 | 約1,740万円 |
30年間の合計は棟あたり約1,740万円と、1LDK〜2DKと比較して約420万円少ない水準です。
1戸あたりに換算すると約174万円になります。
ただし「11〜15年目と21〜25年目に費用が集中する」という傾向はどちらの間取りにも共通しています。
この2つの時期に費用が膨らむ主な理由は、屋根・外壁の塗装工事が重なるタイミングであることです。
同ガイドブックでは、屋根の塗装・補修は11〜15年目、防水・葺替は21〜25年目が目安として示されており、外壁の塗装工事も同じ時期に重なります。
さらに給湯器等の室内設備の交換時期も11〜15年目に集中するため、複数の工事が同じ時期に発生しやすくなるのです。
21〜25年目には屋根の葺替や浴室設備の交換も加わり、11〜15年目を上回る費用が発生する見込みです。
このように、築10年を超えたあたりから修繕費が急増するという点は、投資前の収支計画に必ず織り込んでおくべき重要な視点といえるでしょう。
国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」

修繕費の存在は、アパート経営のキャッシュフロー(収支)に直接影響します。
ここでは、国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」のデータをもとに、修繕費がキャッシュフローにどのような影響を与えるのかを確認してみましょう。
今回は以下の条件でシミュレーションを行います。
※実際の収支は物件の立地・仕様・空室状況・ローン条件等によって大きく異なります。
| 期間 | 修繕費(棟合計) | 年平均修繕費 | 年間家賃収入に対する割合 |
| 1〜4年目 | 0円 | 0円 | 0% |
| 5〜10年目 | 約90万円 | 約18万円/年 | 約1.5% |
新築から築10年目までの期間においては、修繕費の発生は限定的といえるでしょう。
5〜10年目にかけてベランダ・廊下の塗装や排水管の高圧洗浄といった比較的小規模な工事が発生するものの、年平均に換算すると約18万円にとどまります。
年間家賃収入1,200万円に対する割合は約1.5%であり、キャッシュフローへの影響は少ないといえます。
この時期は、次に控える大規模修繕に向けて計画的に資金を積み立てておくことが重要です。
| 期間 | 修繕費(棟合計) | 年平均修繕費 | 年間家賃収入に対する割合 |
| 11〜15年目 | 約640万円 | 約128万円/年 | 約10.7% |
| 16〜20年目 | 約230万円 | 約46万円/年 | 約3.8% |
| 21〜25年目 | 約980万円 | 約196万円/年 | 約16.3% |
| 26〜30年目 | 約230万円 | 約46万円/年 | 約3.8% |
築11〜15年目には屋根・外壁の塗装と給湯器等の交換が重なり、棟あたり約640万円の修繕費が発生します。
年平均に換算すると約128万円となり、年間家賃収入の約10.7%が修繕費として消える計算です。
ローン返済や管理費を加味すると、この時期のキャッシュフローへの圧迫はさらに大きくなります。
さらに注意が必要となるのが21〜25年目です。
屋根の葺替や浴室設備の交換が加わり、棟あたり約980万円と5年間で最大の修繕費が発生します。
年平均では約196万円、年間家賃収入に対する割合は約16.3%に達します。
資金準備なしにこの時期を迎えると、手元資金が大きく毀損するリスクがあるでしょう。
計画的な修繕を実施しないと、収益性にも影響が出ることが国土交通省の調査で示されています。
国土交通省「民間賃貸住宅市場の実態把握及び分析に関する調査検討(計画修繕の実態など調査報告書)」(令和5年3月)によると、木造・RC造いずれの構造においても、計画修繕を実施しない場合よりも実施した場合の方が実質利回りが高いという結果が示されています。
修繕を後回しにすることで短期的にはコストを節約できても、長期的に見ると物件の競争力低下・空室増加・家賃下落を招き、収益性を損ないうる判断といえるでしょう。
修繕費を「コスト」としてだけでなく、物件価値と収益を守るための投資として捉えることが、安定した賃貸経営につながります。

修繕費の全体像を把握したうえで、実際の投資判断にどう活かすかが重要です。
ここでは、収支計画に修繕費を正しく組み込むための3つのポイントを整理します。
修繕費は発生時期によって金額の波が大きく、そのまま単年の収支に当てはめると計画を立てにくくなります。
そこで有効なのが、長期間の修繕費合計を年数で割り、年平均として収支計画に組み込む方法です。
たとえば、木造10戸(1LDK〜2DK)の場合、30年間の修繕費合計は棟あたり約2,160万円です。
これを30年で割ると、年平均72万円、月平均では約6万円の修繕費が発生する計算になります。
毎月の収支計画にこの金額をあらかじめ織り込んでおくことで、大規模修繕が集中する時期にも資金ショートを防ぎやすくなるでしょう。
投資判断の段階で、長期修繕計画(将来の修繕時期と費用を一覧化した計画表)を作成・確認しておくことが重要です。
国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」でも、長期修繕計画の作成が推奨されており、計画的な修繕が物件の競争力維持につながることが示されています。
特に中古物件の場合は購入後すぐに修繕費が必要になるケースも珍しくないため、「買った後に大規模修繕が重なった」という事態を避けるためにも、購入前の確認は欠かせないといえるでしょう。
新築アパートの場合、取得直後から数年間は大規模な修繕がほぼ発生しません。
国土交通省のガイドブックが示すとおり、木造アパートにおける築5〜10年目までの修繕費は棟あたり約90万円(1LDK〜2DKの場合)にとどまります。
この期間は修繕費の負担が小さいため、ローン返済や管理費を支払いながらも、手元に資金を蓄えやすい時期といえます。
また新築であれば建物の状態や修繕履歴が明確であり、長期修繕計画を一から立てやすいという点も、収支管理のうえでのメリットです。
中古物件と比較して初期の修繕リスクが限定的であることは、資金計画を安定させるうえで重要な要素となるでしょう。
国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」によると、木造10戸(1LDK〜2DK)における30年間の修繕費合計は棟あたり約2,160万円とされており、年平均では約72万円、月平均では約6万円という計算です。
積立額の目安として、この年平均額を毎月コツコツと確保する方法が有効といえるでしょう。
ただし修繕費は物件の立地・仕様・築年数によって異なるため、長期修繕計画を作成したうえで、自身の物件に合った積立額を設定することが重要です。
必要です。
新築から築10年目までは大規模な修繕がほぼ発生しないため、修繕費の負担は限定的です。
しかし築11年目以降は屋根・外壁の塗装や給湯器の交換が集中し、棟あたり数百万円規模の費用が発生します。
「新築だから当面は大丈夫」と積立を後回しにしていると、大規模修繕の時期に資金が不足するリスクがあるため、新築取得後の早い段階から、毎月一定額を積み立てる習慣をつけておくことが大切です。
修繕費の税務上の扱いは、工事の内容によって異なります。
建物の機能を元の状態に戻す「修繕費」は、支出した年に全額を経費として計上できます。
一方、建物の価値や耐用年数を高める工事は「資本的支出」として扱われ、減価償却により複数年にわたって経費計上する必要があります。
どちらに該当するかは工事の内容によって判断が異なるため、詳細は税理士や税務署にご確認ください。
修繕費は、アパート投資の収益を長期にわたって左右する重要な変数です。
利回りや融資条件と同様に、修繕費の発生タイミングと金額を事前に把握したうえで投資判断を行うことが、想定外の資金ショートを防ぐことにつながります。
一棟アパート投資をご検討中の方は、ぜひTSONの無料会員登録をご活用ください。
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新卒で株式会社リクルートに入社したのち、20代のうちに起業する。
2014年株式会社鎌倉新書取締役に就任、同社はマザーズに上場(現在はプライム市場)。
リーマンショック後に個人で不動産投資を始める。地方築古、区分マンション、民泊運営、中古RC、新築RCなどの投資を経験。
自身のITスキルを活かして、情報収集ツールや物件の収益分析ツールを自作し、最小の労力で最良の意思決定をすることを強みにしている。
京都大学農学部卒業。
7億件の不動産ビッグデータから、投資勝率をAIがスコアで可視化。投資判断で欠かせない重要指標だけでなく、立地の将来人口予測、地価上昇、賃料動向も瞬時にグラフ化します。物件購入時の見えないリスクを教えてくれます。
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